宝塚月組「THE KINGDOM」から感じる流れる時と命の輝き。

先日の「ロマノフの宝石」から書こうと思っていましたが、やっと記事を書きました。月組「THE KINGDOM」です。凪七瑠海さん美弥るりかさんの魅力溢れる作品。そして何より正塚先生らしく相変わらずずっと薄暗いです(誉め言葉です)これは大劇場公演をした「ルパン -ARSÈNE LUPIN-」のスピンオフ作品なのですが、こちらの方が私は折に触れて見ています。


セリフや歌詞が本当に沁みますし、横移動のボードを使った場面展開、そして月組の若手が盛りだくさんでキャラクターも良かったです。特に活動家グループのリーダーであるヴィクターを演じた蓮つかささんが素敵でした。細面で綺麗、声も良かったです。


暁千星さんは今回も良い役。常にお嬢様に忠誠を誓いながら愛と言うだけでは片付けられない、秘めた思いを抱える雰囲気が漂っていました。フィナーレのダンスでもクルクル回りまくっていました。「THE MERRY WIDOW」でも良いキャラクターだったし、月組の推しを感じます。あと紫乃小雪さん(初物食いのジェシカ!)が少しだけの登場なんですけど、とても可愛くてこれからが楽しみです。


そして憧花ゆりのさんや花陽みらさん、貴澄隼人さんの不思議キャラや貴千碧さんの病床シーンなどはやはり上手いなと感じます。先輩達が雰囲気を作ったり場を引き締めてくれて、そこに若手が重なりそれぞれの素敵な部分をより強く感じられます。


優雅なロマノフの系譜サーシャ早乙女わかばさんと、勝ち気なジェニファー海乃美月さんが後に1789でオランプ(役替わり)となりますが、1789では歌がさらに良くなっていて成長を感じました。これからの娘役の切磋琢磨も楽しみです。


さて正塚先生と言えば、私の心と同じ浸透圧なのかスーッと沁みるセリフがよくでてきます。この作品で特に印象的なのがパーシバルのセリフ「たとえどんな状況になっても決して諦めるんじゃない。地に潜ってでも生きながらえるんだ。生きてさえいれば我々が助け出す」

最近公開された映画『起終点駅 ターミナル』その中で佐藤浩市さんが「生きてさえいればいい。生きていてくれさえいれば」と言っています。「ロマノフの宝石」でもそうでしたが、生きるとは、命とは。正塚先生のメッセージを感じるワードだと思います。


まず生きる。辛い事があってもまた自分が動き出せる日がいつかきっとやってくる。それが明日か数年先かは誰にもわかりません。でもその日まで温存してじっと待つ。生きていなくては何も生まれないんです。大人になっていろいろな事を経験した今だからこそ正塚先生の思いのようなものに気付く事ができた気がします(あくまで私の勝手な解釈ですが)


「THE KINGDOM」とびきりの貴族も、犯罪に溢れる荒みきった町に生きた男も、理想の絵の具を溶いて新しい旗を染め上げようと声をあげる若者達も、それぞれにひたむきに生きその姿が表現されています。それぞれが国を守りたい、国を変えていきたいと、思いは違えど目指すべきものがあります。時代の大きな流れに激しく翻弄されながらも懸命に生きる姿が描かれ、ラストではそれぞれの歌が重なりひとつの歌となります。正塚先生は本当にセリフや細かい表現が良いですね。

今ちょうどNHKBSで「映像の世紀リマスター版」の再放送をしていて、ニコライ2世とか第一次世界大戦あたりの事をやっています。先月から「新・映像の世紀」が始まるにあたり、その前の夏に再放送をしていたのですが反響があったようで今回また放送しています。


そこではちょうどジョージ5世とニコライ2世の時代が出ています。ヨーロッパ列強は当時地球の4/5を植民地とし、さらに新たな植民地の獲得競争を展開していました。競って軍備を増強し相手の隙をうかがっていたのです。


世界の工場と言われ最も多くの植民地を持つ大英帝国のジョージ5世。そしてロシア帝国ロマノフ家のニコライ2世は、世界屈指の富を誇っていました。国家を統一して間もないドイツ皇帝ウィルヘルム2世は、新たな領土獲得に野心を抱いていました。こうしてヨーロッパは一触即発の状況にあったのです。この後サラエボ事件を発端に、オーストリアがセルビアに宣戦布告。同盟を結んでいるドイツが参戦。セルビアを助けるべくロシア帝国、フランス、大英帝国が連合してドイツに戦線布告します。


そして恐ろしい第一次世界大戦が始まります。


第一次世界大戦の開戦に沸く群衆、その中にあのヒトラーがいました。美術学校の受験に失敗し失業中だったヒトラー。その時苛立っていた彼は、自発的に戦争に向かう者達に興奮していたそうです。その後ドイツは第一次世界大戦に破れ国は疲弊し、自信を無くしたドイツ国民は力あるものに惹かれナチスを生む事になります。


サーシャは劇中にこんな事を言っています。

「彼らはただこれまでの苦しみの代償を求めているんだわ。あらゆる恐怖と憎悪を皇帝に向けて。訪れた流れに興奮しきっている。それだけよ」


苦しい時に何か変革の流れができるとそれは止められなくなり、気持ちも制度もそして国も変わっていきます。憎しみなどの感情や私達の力を取り戻す、そうした気持ちだけで動き、時に自分達と違う者達を虐殺する事に繋がります。その後ドイツは毒ガスなどを使って機械的に違う民族や障害者などを大量殺戮をします。

「例え帝政が終わってもロマノフの血脈は絶えていいものではないわ。それを守るためなら私はどうなろうと構わない」

強いものが生き残り弱いものが消えていく。自然界の摂理を説いたダーウィン「種の起源」を人間に当てはめ、劣等な人間を淘汰しても構わないと言う社会ダーウィニズムができ、優秀な遺伝的素質の人間だけを残そうと言う優生学と結びつき世界中に広がります。


そしてドイツでは1920年に「生きるに値しない命を終わらせる行為の解禁」というものが出ます。障害者などの殺害は決しては犯罪ではない。むしろ社会にとって有益であるとしたのです。ヒトラーにより「不健康で無価値な者は子孫にそれを引き継がせてはならない」のちに知的障害や精神障害に子供ができないように断種法ができます。人の手によって人の血脈が断ち切られる、そんな時代があったのです。日本でもハンセン病で断種を強制的にさせられた人達がたくさんいます。


「ロマノフの宝石」は1930年代。ちょうどドイツではヒトラーが政権が始まります。世界恐慌で失業者が増え、不安と怒りによってファシズムが台頭しているヨーロッパが舞台です。正塚先生はこうした時代背景を舞台に、人々の様々な思惑を描き出します。


昨日は、ルパンの舞台であるフランスで同時多発テロが発生してしまいました。まだヨーロッパをはじめ、多くの場所で命が失わる恐ろしい出来事が起き続けています。そして正塚先生はこの緊迫した世界情勢をどう思っているのでしょうか。「THE KINGDOM」は宝塚のいわゆる夢夢しい煌びやかなお話ではないですが、人々が目指す夢(理想)というものが詰まっていると思います。


どんな時であろう

どんな国であろう

留まる事は誰にもできない

生きてる限りいつしか終わる

命の約束


皇帝でも市民でも貴族でも亡命者でも、時の流れとひとつだけの命、それだけが同じなのです。そんな事を改めて感じました。20世紀はじまりが舞台の「THE KINGDOM」ですが、21世紀になっても人はまだ戦いを続けています。「理の書」には世界戦略が描かれていましたが、その後の未来まで殺戮が続くとは思っていたでしょうか。

人という生き物についていろいろ考えてしまう作品なので、雪組の「ルパン三世」を観ると何だか和やかに収められるので合わせて観ると良いかもしれません。もうこちらはコミカルなシーンありビシッとカッコよく決める所もありで楽しいしわかりやすいです。

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